人生という海路を辿る時、ゴールを決めるのは凪か嵐ではなく、
数学者の秋山仁先生が「かつて成人式で絶叫講演 若者に届いたか」という文章を新聞に投稿されていた。
秋山先生が若い人向けにと成人式で講演を頼まれ、さて自分が成人式を迎えた時にお話を伺った詩人・哲学者として著名な串田孫一氏のお話しを思い出そうとしても何も覚えていなかったと。こんなだったので何とも気が重かったし、成人式で暴れる若者のニュースがニュースなどで流れていたので尚更だったそうだ。
でも、秋山先生の素晴らしいところは、「大半の人たちが聞く気がなかったとしても真剣に聞こうとしている新成人たちに失礼だ!一度引き受けた以上、その仕事は全力でトライすべし!これをモットーとしていたので普段の何倍もの気合を入れ、観客席にも駆け下り、会場を動き回り、新成人に必死に語りかけた」そうだ。やることはやったものの恥を忍んでやるだけのことはやったが自分の話が若者の心に届いたかどうかはずっと疑心暗鬼だったようだ。
でもそれから2、30年経って一緒に仕事をした人から、成人式で秋山先生の講演を聞き、「大きな夢を抱いてそれに向かって自分を成長させていけ」というメッセージと共に、「会場を必死の形相で駆けずり回っていた先生の姿が強く心に残っている」と言われた時には、半分恥ずかしかったが、少しはやくにったのかなと嬉しかったと記している。
私がこの記事の最後に、先生が若者の門出に送っている言葉エラ・ウィラー・ウイルコックスの詩がたまらなく心に沁みた。
「ある舟は東に進み、またほかの舟は同じ風で西に進む。
ゆくべき道を決めるのは、疾風ではなく帆の掛け方だ。
海の風は運命の風のよう。
人生という海路を辿る時、ゴールを決めるのは凪か嵐ではなく、
魂の構えだ」
(『運命の風』より)
2026年1月19日信濃毎日新聞より
